2001年サイバドールの旅 7/10

NASAの建物の一つの入り口の前で、南原と受付の男が言い争っていました。
南原の後ろにはかすみとメイの姿もあります。南原は建物の中に入れない不満を
受付の男に全身で訴えています。
「・・・はい、確かにナンバラカンパニーの名前はお聞きしております、しかし、いくらその関係者の方だと言われても、
ここから先にはお通しすることは出来ません」相手の男がカタコトの日本語で応対します。
「しかしな!あのシャトルには、私の盟友や部下が乗っておるのだ、安否が知りたいのは当然だろう!」
「事故の原因はただいま調査中です、どうぞ今日の所はお引き取り下さい」
「えーい!だからだなー!」
「南原さん!もういいんです・・・、引き返しましょう」
ほとんどけんか腰になっている南原をメイが止めます。かすみもいつ南原が手を出すか、心配そうです。
「いいのかメイちゃん?・・・、仕方ない・・・えい!おまえ!!また来るからな!!!」
南原は捨てぜりふをはいてかすみ達と一緒に車に戻っていきました、受付の男は肩をすくめます。

NASAの敷地の高台の一角に展望台の施設があります。小さな体育館ほどの施設の一方の壁は全面ガラス張りになっていて、
そのガラス越しに数キロ先にあるシャトルの発射の様子が見学できるようになっていました。
しかし今はその建物には見学者は誰もおらず、展望台からも和也達を乗せたシャトルが飛び去ったあとの
発射台がむなしく見えるだけでした。
かすみ達三人はその展望台に疲れた様子で帰ってきました、今は誰も座っていない、空っぽの見学者用のイスが
たくさん並ぶ建物の中で、ぽつんとただ一人、マミがみんなの帰るのを待っていました。
「どうだった?」マミの質問に、かすみが力無く首を振ります。
「そう・・・今エルもNASAの人と交渉しているわ・・・、うまく行けば何かわかるかも・・・」
「ええい、ここの連中がこんなに石頭だったとは知らなかった!今度から出資してやらんぞ!!」
南原は歯がみして悔しがります。
「いったいどうなっとるんだ、シャトルに乗っているみんなが無事なのか、それとも・・・」
「南原っ!!」かすみが声を荒げます。
「分かってる!私だってそんなこと考えたくもない、でも今の我々には手も足も出んのだ!
明日もっと話の分かる者に会ってだな・・・」
「明日じゃ遅すぎるよ!!」
「かすみさん!南原さん!もういいんです!!」メイの叫ぶ声に驚き、二人の言い争いはぴたりと止まってしまいました。
「もういいって?メイ!あんた何言ってるの!!」かすみはびっくりしてメイを見ます。
イスに腰を落としたメイは肩を振るわせて大きくうなだれ、両手でスカートの裾を固く握りしめています。
もうすでにエプロンの上には、大粒の涙がいくつも落ちていました。
「・・・こんなに待っても何の連絡もないなんて・・・
もしかしたら・・・もう和也さんダメかもしれない!!」
「バカーーーッ!!」
パシーーーッ
ついにたまりかねたかすみは、おもわずメイの頬を平手でたたいてしまいました。
「かすみさん!?・・・」メイは驚いて顔を上げ、たたかれた頬に手を。
「ごめん、メイ・・・、でも情けないこと言わないで!
簡単にあきらめちゃダメだよ!ボクたち今までもいろんな大変なコトあったけど、
そのたびに何とか切り抜けてきたじゃない!それを、もうだめだなんて・・・
クヨクヨしているメイなんか・・・メイじゃないよっ!!」
「かすみさん!!」
メイの止める声も聞かず、かすみは建物の外に飛び出ると、ただっ広い敷地の中を目をつぶったまま滅茶苦茶に走り出し、
ついに草むらの中に転げ込んでしまいました。
倒れてしまったかすみは、こぼれそうになる涙をこらえようと堅く目をつぶり、唇をかみしめます。
(メイのバカ!!ボクだって、ボクだって・・・泣きたいの我慢してるのに!!)

「かすみさん・・・」
つぶやきながら頬をさするメイの後ろから、マミがメイの両肩に手を置いてやさしく言います。
「メイちゃん、かすみちゃんの言うとおりよ・・・今の私たちには何もできないけれど、
でもあきらめちゃダメよ・・・和也ちゃんには私達の仲間が三人もついてるのよ、
それに和也ちゃんなら決してあきらめない・・・きっと切り抜けるわ・・・」
マミの言葉にメイは落ち着きを取り戻しますが、振り返ってはっと驚いてしまいます、
そこには、目に一杯にたまった涙をこぼさないように必死になってこらえているマミの顔がありました。
「マミさん?!・・・」

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