2001年サイバドールの旅 6/10
「・・・ダメだわ、やっぱり計器を直しただけじゃ動かない!」
ケイが悔しそうに言います。
「計器だけじゃって、どういうことですか?」和也が尋ねます。
「外にある太陽電池がうまく働いていないみたいなの、それで船内の電圧が不安定になってしまってるわ、
計器が安定して動かないのは、きっとそのためだと思うの」
「どうするつもりなんです?ケイさん」
「外に出て直接直すわ、サラ、手伝ってくれるわね?」
「ああ、いいよ」
「外に出るって?」和也の問いかけに答えず、二人はデッキの後部にあるハッチに潜り込んでいきました。
ピー、スピーカーの呼び出し音がなり、ケイの声が聞こえます。
『和也君、貨物室側のハッチを開けて』
「はい!」
和也はドアの開閉スイッチを入れます、すると「ドコン」というハッチの開く低い音が聞こえました。
(外に出てどうするんだろう?)ケイの言葉に和也は不思議に思い、
デッキの後ろ側の窓から二人が何をするのか確かめようと覗き込んでみました。
すると、いきなり窓の外を女の人の白い脚が横切っていきました。
「え、何?今の??」和也は驚いて目をぱちくり、めがねをかけ直してもう一度目を凝らしてみましたが、
今度は何にも見えません。
(今のはいったい、何だったんだー?)
和也はあらためて別な窓から外を見ることにしました。
別の窓から見えた光景に和也は目を見張りました、そこには、ケイとサラ、二人のサイバドールが普段と変わらぬ服装で
シャトルの外に浮かんでいるのが見えたからです!
彼女たちは、命綱こそ付けていましたが、宇宙服を着る時間も惜しんで船外に飛び出していったのです。
ケイの方は、その後ろに見える地球と同じ色の髪をアップにまとめ、たくし上げたスカートを腰の高さで大きく結わえて、
作業のじゃまにならないようにしていました、さっき和也が窓の外から見えたのは、このケイの素足だったのです。
二人は、お互いの手のひらを合わせ、何か打ち合わせをしていたようですが、間もなく大きくうなずき、
シャトルの船体を伝って太陽電池の付け根にある機材にたどり着き、作業を始めました。
「ケイさん、サラさん、凄い・・・」窓から眺めながら和也は感心します。サイバドールとのつきあいは誰よりも長い和也でしたが、
彼女たちがこれほどの能力を持っているとは、発明した本人すら知りませんでした。
しかし和也の感心をよそに、ケイ達の方は大変な思いをしています。ケイとサラ、数多いサイバドールの中でも屈指の二人でしたが、
やはり宇宙服なしでの船外活動は、自分たちの能力のほとんど限界に近いものでした。
「ケイのやつ、フリーズしなけりゃいいけど・・・」
窓から二人の様子を見ながら、レナが心配そうにつぶやきました。
「ねえ和也、二人が戻ってきたら・・・、和也?・・・和也ったらどうしたの!?」
何とか作業はうまくいき、ケイとサラは顔を見合わせてほっとします。二人がハッチに戻ろうと向きを変えた時、
ケイの背中のリボンが船体から突き出ていたアンテナに引っかかってしまいます。
ケイはひっくり返ってバランスを失ってしまい、あせって両足をばたつかせた拍子に、片方のサンダルが脱げてしまいました。
ケイは慌てて脱げたサンダルを取りに行こうとしましたが、サラが止めました、ケイのサンダルはそのままのスピードを保ちながら
じきにシャトルから遠く離れ、やがて見えなくなってしまいました。
・・・これから何年後、あるいは何十年後、宇宙に出ていった飛行士達が、衛星軌道上を漂う女性のサンダルを発見したとき、
いったいどう思うのでしょうか?あり得ないことではありません。
ケイ達が作業を終えハッチに戻ろうとすると、船内のレナが、必死の表情で窓を内側からたたいていました。
(何かあったのかしら?)二人は不思議に思い顔を見合わせますが、とにかく急いで船に戻ることにしました。
「どうしたの!レナ!」
内側のハッチがまだ開ききらないうちに、ケイが問いかけます。
「和也が!和也が大変なの!!」半泣きになったレナが指さす方を見て、二人は驚きます。
和也が大きく肩で息をし、体を丸めて苦しそうな表情で宙を漂っているのが見えたからです。
「和也君!」
「早乙女!」
二人は宙に浮かぶ和也の体を掴まえ、彼の額にケイが手をかざします、彼の体調を瞬時に調べたケイは、
船内に起こりつつある恐ろしい事態に気がつきました!
「酸素が!!」