2001年サイバドールの旅 3/10

・・・それは和也達の眼前にそびえ立つように立っていました。
白とオレンジに塗り分けられた塔のようにも見えましたし、
大空に向いて今まさに飛び立とうとする怪鳥にも見えました。
その巨大さは、本当にこれが舞い上がるのが信じられないほどで、
しかしその飛び立つ姿を誰もが一目見たいと思っているものです。
無骨な鉄塔達に支えられたそれは、想像していた何倍も何倍も大きくて、
さらにその何倍も何倍もワクワクさせてくれるものでした。

「すばらしいわスペースシャトル!
20世紀の科学の粋を集結した宇宙連絡船!!
全長56メートル
全高23メートル
総重量2000トン
最大推力3000トン!」
帽子が風に持って行かれそうになるのを手で押さえながらも、
ケイは感激の言葉を謳い上げます、
まるで詩を朗読するかのようです。
「シャトルの操縦、やらせてもらえないかしら?」
「ハハ・・・、ケイさん、それはいくら何でもむりですよ」和也が答えます。
「そ〜お、私、操縦には自信あるんだけどな」ケイは早くシャトルに乗ってみたくて仕方がないようです。
「この前の飛行の時の、ほ乳類培養細胞の超微構造と機能に及ぼす無重力の影響に関する研究も良かったし、
骨由来培養細胞の増殖・分化機能発現におよぼす微小重力の影響実験もゾクゾクしちゃった!
でもやっぱり一番面白かったのはマシュマロとチョコレートの混合実験だったかしら…」

みんな、たっぷりシャトルの雄姿を外から眺めたあと、さあいよいよシャトルに乗り込もうとした時、
どこからともなく電話の呼び出し音が・・・
「あ、ワシじゃあ」サラが自分の左手を耳に近づけ、指を立てます。
「もしもし・・・はいはい、南原さま・・・そんなに怒鳴らなくてもちゃんと聞こえてますよ!」
サラは相手の都合を考えずにかけてくる南原の電話に応対しながら、もう片方の手で、
(すまんのう、みんな先に行っといてくれや)と、広島弁の(?)手振りをします。
それを見たみんなは先に発射台のエレベーターに乗り込むことにしました。
発射台の一番上に着いたみんなは、円形の狭い乗り込み口から、背をかがめてシャトルの中に入っていきます、
「フライトデッキって、思ってたより狭いんだな」
頭の真上になっているシャトルの窓から見える青空を見上げながら和也はつぶやきました。
「すべてのスイッチに手が届きやすいように・・・ということか」
「すごいわ!すごいわ!すごいわ!!」ケイはもう大感激で、なめるようにして計器板を見つめています。
「和也ー、こっちにも部屋があるよー」隣の部屋をのぞき込みながらレナが和也を呼びます。
「ああ、そっちはミッドデッキだね、乗組員の人たちが、食事をとったり眠ったりするところだよ、
シャトルには8人まで乗せられることが出来るんだ。
ほかにも今は積んでいないけど、荷物室に実験設備を積んで宇宙に行ってからそこでいろんな実験をするんだよ」
「ねえ和也、運転席に乗せてよー」
「はいはい」
ねだるレナを和也は抱き上げると、今は横になって上を向いている操縦席にヨイショッとレナをのせてあげます。
操縦席に座ったレナは、大はしゃぎです。
「レナチャン、カッコイイ〜」イカリヤが、あおります。
レナは座席に座って両足でペダルをばたばた踏んづけたり、握った操縦桿をガチャガチャさせて遊び始めました。
「レ、レナチャン、遊園地の乗り物じゃないんだから、そんなにムチャしたら・・・」和也は冷や汗をたらしてあせります。
「平気へいきー!アストロノート、レナ!ただいま出発しまぁーーす!」
レナがそう言ったとたん、
ドーーーーン、ズズズズズズズーーーン
と、低い音がしたあと、シャトルの本体が小刻みに振動を始めました。
驚いた和也とケイはお互いに顔を見合わせます。
レナも驚いて操縦桿から手を離します。
「レナは何もしてないよー」
「何でしょう?ケイさん?」和也がケイに尋ねます。
「私には、エンジンの点火音に聞こえたけど・・・まさかね。
ねえ和也君、外に出た方がいいんじゃないかしら?」
「でも、サラさんを待ってないと・・・」
「和也、降ろしてー!はやく〜」

そのころ外では、一方的にしゃべり続ける南原の応対にサラが四苦八苦していました。
「・・・はい、それと大丈夫ですよミサのことなら、あの娘もだいぶもみじ山辺りの地理は覚えましたから、
迷子になることはありませんよ・・・はいはい、ですから・・・」
ズッーーードドドドドドドドドォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
突然辺りに大音響がとどろきます。
サラは驚いてシャトルの方を振り向くと、シャトルのエンジンノズルから猛烈な炎が吹き出しているのが見えました。
「何じゃ!、発射するつもりかい!まだ中に早乙女らが乗っとるんじゃろうが!」
「・・・何だ!?どうしたサラ!?おい、ちゃんと聞いとんのか!!?」
電話の向こうで怒鳴る南原の声を無視し、サラは全力でシャトルへ走っていきます。
猛烈にわき上がる噴煙の中につっこみ、発射台の中程にジャンプして飛びついたサラ、
一気に発射台の非常階段を駆け上り、サラがシャトルの乗り込み口に頭から飛び込むのと、上昇し始めたシャトルが
乗り込み口との接続部分を引きちぎるのが、ほとんど同時でした。
「早乙女ーー!おるんかー!!」
「サラさんですかー?!ハッチを閉めてくださいっ!早く!!」奥から和也の叫び声が。
「よっしゃー!」
サラは振動でふらつく体を通路の壁に当てた手で支えながらハッチまで戻ると、こん身の力を込めてハッチを引っ張ります。
ズドンッ!という音とともにハッチは閉じ、外から聞こえていたエンジンの噴射音のとどろきが遮断されました。
そしてついにサラも振動と加速で床に倒れ、はいずるようにしか動けなくなってしまいました。
シャトルは上昇しながらゆっくりと半回転、背面飛行へと姿勢を変えて、ますます速度を増していきます。
「みんながんばれ!少しの辛抱だーー!!」和也が叫びます、
猛烈な加速でみんな自分の体重が一度に何倍にもなったように感じられ、ゆかに張り付いたように動けなくなっています。
発射台を離れ2分後、燃料が切れた固体ブースターが機体から離れ、
8分後にはシャトルよりも巨大な燃料タンクが役目を終えてオービターから離れていきました、
すでに高度は400kmをこえようとしていました!!

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