素直な小悪魔.5

二人は、あわてて芝生の上に広げていた荷物を片づけると丘を降りていきました。
みんなあわてて何かあった方から逃げて行くようです。
かすみは目の前を横切ろうとする男の人を、一人呼び止めて尋ねてみました。
「いったい何があったんですか?」
「ゴリラが逃げ出したらしい!」
「ゴリラ?」
「飼育係の人が餌をやろうとして、殴り倒されたみたいなんだ、君たちも早く避難したほうがいいよ!」
男の人は、それだけ言うとすぐに走り去っていってしまいました。
「かすみさま…」
「うん…」ミサの呼びかけに、かすみは彼女と同じことを考えました。
「和也君を見つけないと…」
しかし、その必要はありませんでした。逃げている人混みの、そのドンケツをあたふたと走っているのが、すぐに目に入りましたから。
「和也さま!」
「和也くん!」
彼は片手に買ったばかりのおみやげの袋、そしてもう一方の手で、なぜか幼稚園くらいの女の子を引っ張っています。
きっと持ち前の正義感から逃げ遅れた女の子を助けた、まではよかったのでしょうが、日頃の運動不足がたたり、
結局自分まで一緒になって逃げ遅れたんでしょう、女難の相はここでも現れています。
義理堅い和也は、みんなのためのおみやげも手離そうとしません。ついに息を切らし、その場にへたり込んでしまいました、
そこへ一陣の疾風と滑走音!!
「?!マミさん!!」
「和也ちゃん!荷物と女の子を私に!一緒に逃げるのよ!」
「はい!」
すんでの所で間に合ったマミは荷物と女の子をなれた手で抱き上げ、身軽になった和也は再び立ち上がり走り出そうとしました、
しかし気の立ったゴリラは、すぐそこです!そこに、
「パッコーーーーーン!!」
かすみの投げた剛速球(この場合は空き缶でした)が、ナイスコントロールで見事にゴリラの顔面に直撃!
相手がひるんだ一瞬のその隙に、和也とマミは逃げ出すことに成功します!
しかし、猛獣相手に空き缶ぐらいでは何の効果もありません、かえって気の荒くなったゴリラは、今度は自分に空き缶をくらわせた相手、
かすみたちの方に向きを変えてきました。
「…かすみさま、どうやらわたくしたち、あのゴリラさんを怒らせてしまったようですよ」
「うーん、いいコース決まったからねぇ」
ミサは、あせってかすみの腕を引っ張るのですが、かすみは足がすくんでしまって思うように動けません、
「かすみさま、早く!」どんどんゴリラは、二人に近づいてきます!
あとわずかの所まで、ゴリラが近づいてきたとき、二人と獣の間に勢いよく飛び込んできた人影がありました!
その姿を一目見て思わずミサは叫んでしまいます。
「サラ姉さまっ!!」
その通り!すっかり元気を取り戻したサラが現れたのです!
彼女は肩越しに二人の方を振り向くとニヤリと笑い、ミサに向かって言いました。
「さあ!ひと暴れするよっ!!」
「はいっ!」
勢いづいたミサは、腰にぶら下げていたホウキを取り出すと柄を長く延ばし、飛行モードにするとかすみに言います。
「さあ、かすみさま!安全な所までお連れいたします、どうぞお乗り下さい!」
「う、うん」
おそるおそるホウキの細い柄にかすみが腰掛けるやいなや、たちまちホウキは二人を乗せて軽々と舞い上がります。
数メートルの高さに浮き上がったかすみを見上げると、彼女のスカートの中がっ!
「キャーーーーーーーーーーーーッ」
かすみのぶったまげる叫び声を乗せ、ミサの操るホウキはたちまち向こうの方へと、飛び去っていきました。

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