素直な小悪魔.3
「動物園」・・・家族連れかカップルでもないとあまり行かないところで独り者には縁遠い場所です。
和也も子供のころは何度か行ったことはありますが、学生になり研究に打ち込み始めてからは、とんと縁がありません、
かすみでも誘って行けばよかったのでしょうけどメイ達サイバドールが現れてからはそんな事も出来なくなりました。
だったらば、かすみの方から誘っても良かったのでしょうけれど・・・
ひょっとしたらお互いに相手が誘ってくれるのを待っていたのかもしれません。
そんなわけで、元々ミサを元気づけようと考えて誘った二人ですが、結構自分たちも楽しんでいるようです、かすみの方は特に。
和也は昨日の晩、Webを使って仕入れた知識をもとに二人に色々と得意げに説明してやっています。
しかし、そんな楽しそうな3人を物影からじっと見ている小さな人影がありました。どうやらあれはレナのようです。
「どおして私まで引っ張ってくるの−?」ケイがレナの後ろから同じようにのぞき込んで尋ねました。
「そんなこと言うんだったらついて来なきゃいいでしょっ!」
「だって、私もあの子の飛行システムには興味があるもの」
「またそんなことばかり言って!ほらケイ、肩ヒモ肩ヒモッ!」
「アラ、ごめんなさい」ケイは落ちた肩ひもを平然と直しながら話を続けました。
「でも、やっぱりレナもあの子の事が結構気になってるのね」
「バ、バカ言わないで!」レナはあせります。「だいたいあいつは目が離せないのっ!私はね、あいつが和也を横取りしないか見張ってるだけよ!
もしあいつが反則なんかしたらとっちめてやるんだから!」
「マア、そうなの、うふっ」レナは慌てて言い訳しますが、ケイにはすっかりお見通しです。
「あ〜らあら、でも今回は和也ちゃん達の方から誘ったんですからね〜、ジャマしちゃダ〜メですよ」二人の会話を後ろで聞いていたマミが言いました。
「いいですか〜、も〜し勝手に飛び出していったりしたら、今日の夕食はヌキですからね〜」
「ハ〜イ」二人が口をそろえて返事します。
「…でもメイちゃんたら、自分は遠慮するなんてと〜っても立派だわ」マミはかすみ荘を出るときのメイの言葉を思い返しました・・・。
『…私、ミサさんに好かれてないみたいだからお留守番しています。
家の用事はメイが代わりにやっておきますので、マミさん行ってください…』
「…メイちゃんな〜んて優しいのかしら、本当、私たちサイバド〜ルの鑑だわ」
柵にもたれかかりほおづえをついて思わず遠い目になってしまったマミ、向かいのサル山のサルみんながそんなマミを不思議そうに眺めています。
「ね〜え、私たちもせっかく来たんだからいろいろ見て回りましょうよ、興味があるわ」ケイが言います。
「ケイちゃんグッドア〜イディアよ〜、ただし和也ちゃんたちとは逆回りに見ていきましょ〜ね」と言うとケイとマミはさっさと歩き出してしまいました。
「ちょっと待ってよ!あの3人はどうするのよっ!」レナも二人の後をあたふたとついていきます。「ったく!和也と来たかったのは私だったのに〜!」
レナがブツブツ言いながらしばらく歩いていると急に背中がふっと軽くなりました、
後ろのフードに手を延ばしてみると乗っけておいたイカリヤがいません!
驚いて振り向くとなんとゾウが柵越しにイカリヤを自分の鼻に吸い付け持っていこうとしているではありませんか!
「レナチャンタスケテ〜!」イカリヤが手足全部をじたばたさせて助けを求めています。
あわててレナはすんでのところで持っていかれそうになったイカリヤを掴まえました。
「ちょっとあんた何するのよっ!」ゾウに怒鳴りつけながら、メイっぱいイカリヤを引っ張ると、なんとかゾウからイカリヤを取り返すことができました。
でもその代わりにイヤと言うほどしりもちをついてしまいましたけど。
お尻の痛みをこらえながらレナがイカリヤを叱りつけます。
「もお!世話を焼かせないでっ!イカが吸いつかれてどうすんのよっ!」