ケイさんの電脳地獄車・エクストラ 『私刑台のエレベーター』


かすみ荘、和也の部屋にて。(例によって和也とメイは外出中)

ケイ「サラさん、見て見て〜」

サラの前のテーブルに輪ゴムで巻いた札束をゴロリと転がすケイ。

サラ「・・・何これ、大金じゃない。どこかのコンビニでも襲ったの?」
ケイ「人聞きの悪い事言わないでよ。然るべき手段で稼いだのよ」
サラ「しかるべき手段て? 大学のバイト代じゃないよね?」
ケイ「・・・チ・ン・コ」
サラ「はぁ!? 今なんか不穏当な発言しなかった!?」
ケイ「パ・チ・ン・コ、って言ったのよ」
サラ「パチンコって、あのピロリロリ〜って奴? 何でアンタがそんな事・・・」
ケイ「弓ゼミの聴講生に原田君ていうパチンコに詳しい人がいてね、その子に教えてもらったのよ」
サラ「いくらあんのよコレ・・・うぇ、12万!? ひょっとしてアンタ、自力で出したっての!?」
ケイ「そうよ〜。甘釘台とかのお世話にはなっていないわよ〜」
サラ「あ・・もしかしてアンタがこの間言っていた、いい利殖の方法ってコレの事?」
ケイ「そう。当たれば大きいわよ〜。サラさんもやってみな〜い?」
サラ「いや・・・いい。ギャンブルに金つっ込むより、らうめん食べた方がましだよ」
ケイ「ふふふ・・・そう言うと思ったわ」
サラ「で、どうすんのよこのお金。あたしにくれるってかい?」
ケイ「それを元手にパチンコで稼ぐというのならあげるわ」
サラ「そうやってまた悪の道へ誘うぅ〜」
ケイ「今度はまじめな話をするわね。さっき千草さんにもソレ見せたのよ。そしたら『賭事で大勝ちしたらツキが落ちるから、散財して厄を落とすといい』って言われたの。どういう意味?」
サラ「読んで字のごとくよ。詳しく説明したらアンタまたハングアップしそうだから、これ以上は言わないよ」
ケイ「・・・まぁ、いいわ。それで千草さんはみんなに美味しいものおごってあげたらいいって言うの」
サラ「使い道としては妥当だろうけど・・・それ大家さんに丸め込まれてるンじゃないの?」
ケイ「でも千草さんは行かないって言っていたわ。私たちだけで行ってらっしゃいって」
サラ「そうなの? せっかくの機会に・・・奇特な人だねぇ」


後日、都内高層ビルのエントランス・ホールにて。

かすみ「でさ、和也クン」
和也「なんだい?」
かすみ「たまたまこっちに来ていたから、マミさんを誘ったというのはまだわかるわよ。・・・何で南原君までここにいるのよ!」
サラ「あたしが話した」
かすみ「どうして余計な事するのよ!」
サラ「しょうがないでしょ、のけ者にされたとわかったらアイツまた大荒れするよ。ネチネチ文句言われるあたしの身にもなっておくれよ」
南原「どぉしたぁ? 何コソコソ話しとるんだぁ?」
サラ「いいえ――こっちの事で」
南原「フン・・・」
和也「・・・サラさん、今日の南原、何だかテンション低そうですね」
サラ「ゆうべホームシアターで『地獄の黙示録・完全版』と『プライベート・ライアン』ぶっ通しで見ていたからね」
かすみ「え・・どっちとも三時間近くある映画でしょ? 」
サラ「そ。だから徹夜で寝不足気味なのよ」
かすみ「何かボク、あんなに大人しい南原君初めてみたような気がする・・・」
サラ「意外かも知れないけど、寝起きのアイツなんてあんなもんよ。低血圧気味っつーかさ。あの状態から徐々にテンション上げていく訳よ。本人は暖機運転て言ってるけどね」
和也「それにしても何で戦争映画ばかり・・・」
サラ「特に好みの基準は無いみたいだね。こないだも黒沢明の『野良犬』見た後で『遊星からの物体X』見たり・・」
かすみ「ブッ!!」
和也「どうしたの!? かすみちゃん?」
かすみ「・・・・・ううん、何でもない・・・」
サラ「(見たことあるな、かすみ・・・) とにかくアイツのセンスはようわからんわ」
和也「・・サラさん、もしかして南原に付き合わされてます?」
サラ「まぁね。寝たら起こされるし、そうなったらひたすら辛抱モードよ」

レナ「どうしたのよケイ? ぼーっとして」
ケイ「・・・ねぇレナちゃん、どうしてこういうビルやデパートのレストランて、最上階に作られているのかしら?」
レナ「知らないよそんなの。眺めがいいからじゃない?」
ケイ「眺めがいいとどんなメリットがあるの? 食欲が増すというの?」
レナ「だから知らないってば。どうだっていいじゃないの」
ケイ「よくないわ。だって食材の輸送や、水やガスの圧送にも相当コストが掛かっているはずよ。当然それはお料理の価格にはね返ってくるわよね」
レナ「まぁ・・・そうかもね」
ケイ「それに火事とか地震とか、災害時に来店客の安全は確保できるのかしら? どう考えてもリスクが大きいと思うんだけど、それでもお客はそういう店へやってくるのよね。何故かしら?」
レナ「やめなよケイ。レナちゃん達、今からそういうお店にいくんでしょ。縁起でもないこといわないでよ・・・ちょっとケイ!?」

白目をむいてへたり込むケイ。

レナ「ほら言わんこっちゃない! こんな所で旅立たないでよ、気持ち悪いったら・・」
マミ「あらあら、ケイちゃんどうしたの〜? もしかしてハングアップ?」
レナ「見ればわかるでしょ。マミ何とかしてよ」
マミ「しょうがないわねぇ。じゃ、ちょっと下がってて・・・いくわよっ地上最強のカラテ!! へあっ!!」

ケイの首筋に斜め45度の角度で手刀をたたき込むマミ。げふっと息を吐き出すケイ。

ケイ「・・いった〜い、何するの・・・あら、私ったらどうしたのかしら・・・」
レナ「ほらケイ、エレベーター来たよ。さっさと乗る支度して」

かすみ「(ヒソヒソ)・・・言っちゃ悪いけどさ、ケイさんの体っての○太君ちのテレビ並だよね」
和也「・・それは・・悪いよ・・(苦笑)」
南原「(ぬっ) あと、ミレニアム・ファルコン号な」
和也「わっ南原、脅かすなよ」

一同、到着したエレベーターに乗り込む。が、全員乗った途端ブザーが鳴る。

かすみ「ありゃ、定員オーバーだ」
南原「よしサラ、降りろ。お前が一番重そうだからな」
サラ「いっ、一番重・・って・・・」

一瞬マミに目をやり、抗議しようとするが諦めるサラ。

サラ「・・わかりましたよ。降りればいいんでしょ、降りれば(・・・ブツブツ)」

サラが降りたが、まだブザーは鳴りやまない。

和也「えっ・・・まだダメなの?」
南原「よーし、次に降りてもらうのは・・・」
かすみ「勝手に仕切らないでよ!」
サラ「!・・・・早乙女、おいで!」
和也「ええ!? 僕が?」
サラ「いいからいいから! すぐ次のが来るから!」

サラに引っぱり出される和也。と同時にブザーが鳴りやむ。閉まり行くドア。

サラ「(ニッコニコ) それでは皆さん、また後ほど〜」
和也「・・ああっ、待って・・・」

ガコン。 ウィィ〜ン。 登り行くエレベーター。

マミ・南原・ケイ「・・・・・」
かすみ・レナ「・・・・・」
メイ「・・・・・サラさん、和也さんサラってっちゃった・・・」
レナ「・・・あっ、サラずる〜い! 和也と二人きりじゃない!!」
かすみ「・・ちょっと・・・、何よアレ、信じられな〜い!!」
マミ「あらあら、サラちゃんたら随分したたかになったわねえ」
ケイ「・・・さすがの私も今の行動は予測できなかったわ・・・やるわねサラさん・・・」
南原「・・日頃ヤツにベタベタするのが慣れっこになっているから、こういう時に足元をすくわれるんだ、たわけ共が。あっ、メイちゃんは違うからね〜」
メイ「は・・はい・・・」
他一同「・・・・・」
南原「・・それにしてもだ、このエレベーターのケージって定員8人だよな」
マミ「8人ねえ・・・」
南原「きっかり8人乗って、何でブザーが鳴るんだぁ?」
他一同「・・・・・」
南原「誰が余分な体重稼いでいるんだろうなぁ?」
マミ「・・・(カチン)」
ケイ「・・・(カチン)」
レナ「・・・(カチン)」
かすみ「・・・(カチン)」
メイ「・・・」
ケイ「・・・・・南原君・・・ジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』っていう映画見たことある?」
南原「まぁな・・・」
ケイ「あの映画が始まって1時間24分02秒に警察官の死体が発見されるんだけど、それはどこからだったかしら〜?」
南原「人間ビデオデッキじゃあるまいし、時間単位で内容憶えてる訳ないだろうが・・いや待てよ・・一人目の死体は檻に吊されてて・・・二人目は・・・おい、何だよお前ら。何天井見上げてンだよ!」
ケイ「別に〜」
マミ「べぇつに〜」
レナ「何だかよくわかんないけど・・別に〜」
かすみ「・・・・・」
メイ「メイは・・・ちょっと・・・(汗)」
南原「あ・・お前ら良からぬ事企んでるな!? 俺に体重の事とやかく言われて根に持ってるな!? いいのか? サイバドールが人間に危害加えていいのか!?」
ケイ「・・サイバドールを甘く見ない方がいいわよ・・・例え人間でも相手によっては殺意を抱く時があるんだから・・実行に移せないだけでね・・」
南原「何だとぉ!?」
マミ「あらあらケイちゃん、言葉が穏やかじゃないわよ〜。“実行に移せない”じゃなくて“移さない”って言ってあげないと」
かすみ「南原君、謝った方がいいよ。この件に関してはボクもフォローできないよ」
南原「ならぬ! ならぬわ! 何で俺がサイバドールの体重の事で謝らねばならんのだ!! 本当の事を言って何が悪い!!」
マミ・ケイ「(カチッ)」
レナ「もうやめなよ! せっかくのお食事会なのにこんな事やってたら、お料理がマズくなっちゃうよ」
メイ「ほ、ほら、もう着きますよ」

チーン。エレベーターのドアが開き、かすみ、メイ、レナに続いて降りようとする南原・・・。

南原「・・ったく、何が不味くなるだ。大体ロボットに飯を食う機能を付けるというのがどうかしとるのだ・・何を考えとるんだ早乙女は・・・」
他一同「(カチッッ!)」

降りかかった南原の両腕をムンズとつかみ、エレベーター内に引き戻すマミとケイ。

南原「おお!? な、何のつもりだお前ら!?」
ケイ「かすみちゃん達、先にお店に行っててくれる? 私達、南原君にちょっとお話があるから」
南原「何だよ話って!? 話より離さんかコラ!!」

南原、振りほどこうとするが、マミとケイの手はビクともしない。

マミ「すぐ戻るわ。耕太郎ちゃんにちょっとお説教してくるから〜」
南原「何が説教だ! 俺はガキじゃねぇぞ! メイちゃ〜ん、何とか言ってやってくれんか〜?」
メイ「・・南原さん、さっきの言葉を撤回するまで戻ってこないで下さい! マミさん、ケイさん、よろしくお願いします」
ケイ「引き受けたわ。南原君、タップリ可愛がってあげるわよ」
南原「ま、待ってくれ、メイちゃあ〜ん・・・」

ガコン。 ウィィ〜ン・・・。 降りていくエレベーター。

かすみ「(へー、メイも怒るときは怒るんだ・・・って和也クンの事でかい)」
メイ「はぁ・・でも怖かったです・・マミさんもケイさんも相当体重の事、気にしているんですね・・・」
レナ「でもサイバドールなんだから重いのは当たり前じゃない。二人とも大人げないんだから」
メイ「・・ともかく、ここにいても仕方ないし、お店に入って待ちましょう」
かすみ「うん・・・あれ、ちょっと待って・・お金持ってるのケイさんだよ? 予約してあってもお金払う人がいないんじゃ入るに入れないじゃないの」
メイ「・・下手すると無銭飲食って事になりかねませんね・・・」
レナ「・・・南原がまた余計な事言ってたら、さらに帰り遅くなったりして・・・」
かすみ「あーっ、何なのよ! あの人達いつ帰ってくるの!? 今日はお食事会でしょ!? 何でこうなるのよ!? もう、南原君が和也クンの悪口言ったりしなけりゃ・・・」

チーン。 もう一基のエレベーターが到着する。

和也「ほ、ほらサラさん、着きましたよ」
サラ「もうかい? つまんないねぇ・・・あれ? かすみ、マミ姉達は?」
かすみ「大体サラさんがねぇ!!」


一方その頃。

かすみ荘、和也の部屋。


  「・・・ふーん・・和也君て、こういうのが好きなのね・・・んふふっ」

千草、ガサ入れ中。     (犯罪です・・・)





あとがき

今回は登場人物が多いので、ちょっと形式を変えてみました。
あと地獄車に掛けられるのがケイさんではないのでエクストラ扱いです。


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