ケイさんの電脳地獄車 『母の日』


かすみ荘、和也の部屋にて。(ちなみに和也とメイは外出中)

「サラさん・・・今日は母の日ね〜」
「母の日じゃのう・・・」
「マミさんには何か贈り物した?」
「あたしのお袋でもないのに、何でマミ姉に贈り物せにゃならんのよ?」
「5月の第2日曜日、つまり今日はマミさんの製造日でもあるのよ」
「そういや、早乙女とメイがマミ姉にもみじ山牛乳を贈るとかどうとか言っ
ていたっけ・・・実質的には早乙女主任への贈り物になるんだろうけど。そ
れにしても変な話だよねぇ。毎年製造日が変わるって事でしょ? マミ姉の
本当の製造日っていつなのよ・・・」
「私は知っているけどね・・・ところで気になる事があるんだけど・・母の
日や父の日はあるのに、どうして妻の日や夫の日は無いのかしら?」
「そういや聞かないねぇ、そんな日・・・」
「特に人間の女性って記念日にこだわるものなのよね。自分の誕生日や結婚
記念日を忘れようものなら、ご主人はひどい目に遭わされるらしいわ。それ
なのに、どうして妻の日の制定には関心を払わないのかしら?」
「どうしてだろうねぇ・・・」
「『妻』というポジションを再認識させられるのがイヤだからじゃないかし
ら?」
「あら、千草さん、いつの間に・・・」
「日頃の働きには特に感謝もせず、記念日が来たところで照れくさいとか言
って知らんぷりをしようとする・・・旦那のそういう気持ちが読めるから、
ことさら『妻』であることをクローズアップされる日なんか欲しくないんじ
ゃないかしら・・・私にはしばらく縁のない肩書きだから、どうでもいいけ
どね・・・」
「悪いね、大家さんにはキツイ話題だったかもね」
「ふふ・・・気にしないでいいわ。それにしても母の日、なのよね。今日は
・・・」
「そう言えばかすみちゃんからは何か贈ってもらえたんですか?」
「今のところは・・ね。昔は子供なりに心を込めた贈り物をしてくれたんだ
けど、最近はカーネーションの一本でもくれればいい方ね。レナちゃんがそ
のあたり気を使ってくれているからまだ救われているけど。まぁ、かすみの
場合、私以上に大切な人がいるのなら、それはそれで喜ばしい事だと思うべ
きかしら」
「それって早乙女の事かい? だけどアイツはアイツ、母親は母親で面倒見
てやるべきもんじゃないのかねぇ」
「サラさんにそう言ってもらえると心強いわ。でも・・・値の張る贈り物を
強要する気は無いけど、言葉ひとつも貰えないというのは母親としては寂し
いものがあるわね・・・そうなると花一輪でも手折[たお]りたくなるわね
・・・あの子が大切に育てている花をね・・・ふふふ・・・」
「かすみちゃんが育てている花って、あの朝顔の事ですか?」
「あらあら、洗濯が終わったみたい・・・じゃ、また後でね。・・・ほっ、
ほっ、ほっ・・・」
「お気をつけて〜・・・でも洗濯機の終了ブザーなんて鳴ったかしら? 私
の聴覚センサーには何も聞こえなかったわ。サラさんは・・・サラさん?」
「・・・いや・・・やべー、あたし解っちゃったよ・・・大家さんの言って
いた『花』の意味が・・・こえぇ・・もしそうならズブズブのドロドロだよ
・・・呪われているよ、このアパート・・・」
「何が? 『花』にどういう意味があるというの?」
「駄目っ、言えないっ。言ったのがバレたら、あたし大家さんに首をへし折
られちゃうよ」
「どうして? 千草さんにCBDの頸椎フレームに損傷を与えられる体力な
んてないはずよ」
「そういう問題じゃなくって・・・とにかく駄目駄目! 言えないったら言
えないよ! ・・ああ恐ろしい・・・」
「何でよ! 何でこのアパートが呪われているというの? 千草さんの言う
『花』を手折る事に何の意味があるというの!? あっ、きゅうぅぅ〜〜」
「ありゃ、逝っちゃった・・・」



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すみません、『FACE TO FACE』の続きそっちのけでこんなの書いてしまいま
した・・・。
別の作品の構想を練っていたらケイさんとサラさんが冒頭の様な会話を始め
てしまって、話が膨らんできたところで千草さんも転がり込んできて、気が
ついたらこんな風になってしまいました。
勿論『FTF』は鋭意制作中なので、出来上がり次第お届けに参ります。

ちなみに千草さんの母の日の件ですが、かすみちゃんとレナちゃんから心づ
くしの贈り物があった様です。よかったね和也君。

「え・・・何で僕に話を振るんですか?」


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