2001年サイバドールの旅 1/10

「あ〜らあらあらあらあら〜!、アメリカよア〜メリカ〜!! 我がふ〜るさと〜!
♪う〜さ〜ぎ〜美〜味し、蚊の山〜」
「あ、あの、お客さま、まもなく着陸いたしますので、座席に座って安全ベルトをお締め下さい」
フルコーラス歌おうとするマミを、スチュワーデスが制止します。
和也達みんなは恥ずかしさで真っ赤になりながら、必死になって他人の振りをしていました。
マミが大はしゃぎするのも無理はありません。
和也達一行の乗った旅客機は、今まさにマミの生まれ故郷アメリカの空港に着陸しようとしていたのですから。
実は、和也の学校と姉妹校関係にあるアメリカの工科大学があって、
そこの大学で現在研究開発中のネコ型ロボット「TOM」の今年の研究発表会に和也とケイが参加できるようになったのです。
もちろん大学は2人分の渡航費しか出してくれませんでしたから、他のみんなは仲良くお留守番の予定でした。
しかしなぜかこれが南原の耳に入り(誰が知らせたのかは、おおよそ見当は付きますが)
「どうして俺に相談せんのだーーっ」ということになって、メイやマミ、レナの渡航費を出してくれ、
さらに(これは和也の方から頼み込んだのですが)かすみも一緒について行くことになり、
ここに和也ファミリー一行全員が仲良くアメリカに渡ることとなりました。
今頃は先発してアメリカに渡った南原とサラが宿泊場所などの手配を済ませていることでしょう。
・・・ただ一人、ヨーロッパから渡来し、サラの妹分として南原の屋敷に住んでいるサイバドール・ミサだけは、
どうしても日本に残って人捜しをしたい、と言って参加しませんでした。
「和也さん、南原さんってホントにいい人ですねっ」
窓側の席から外の景色を見ていた和也に、隣の席に座っているメイが話しかけます。
「ああ、そうだね、さすがにあいつもこの前のことで懲りたみたいだ、いろいろ協力してくれるよ」
笑顔で和也が答えます。
「おかげでメイも、お留守番せずに和也さんと一緒に来れました、私、南原さんに感謝しちゃいますっ」
このメイの言葉、南原が聞いたら泣いて喜ぶでしょう。
レナは座席で両足をぶらぶらさせながら独り言を言っています。
「向こうに着いたら、すぐにイカリヤ、バッグから出してやるんだ・・・」
さすがに飛行中の機内では電子機器であるイカリヤを起動させておくわけにはいきませんから、
システムを落とし、バッグの中に直してあったからです。
「あの、お客様、安全ベルトは肩からじゃなく、腰からお回し下さい」
マミがまたスチュワーデスから何か言われています。
「あ、まただ・・・」赤くなる和也。
またみんな他人の振りをすることにしました。

「ここだよ、南原!」
みんなが到着し空港の表玄関を出ると、黄金色の大きなストレッチリムジンが近寄ってきました。
一目で、誰の車かわかります。
「趣味わる〜」レナがぼそりとつぶやきました。
車のドアが開いて、中から出てきたのは南原、サラ、そしてもう1人。
「ハーイ、マミ〜、久しぶり〜!」
「あらあらあら〜、エル〜、Myフレ〜〜ンド!!」
最後に車から出てきた長身の美女とマミは互いに走りよると2人はしっかりと抱き合いました。
みんなしばし呆然・・・
「皆さ〜ん、紹介しま〜す、私のチクワの友、エルよ〜!」
「エルといいます、皆さんよろしく」
背の高さこそ、マミとほぼ同じくらいでしたが、ウエーブのかかったブロンドのロングヘア−、
パンツスーツ姿のその女性は、着物姿のマミと好対照を見せていました。
エルと呼ばれたその女性は、和也の方にまっすぐ近づいてきて。
「あなたがミスター早乙女和也ね、私はエル、どうぞよろしくね」
背の高いエルは、和也の顔をよく見ようと、少し前屈みになって、握手を求めました。
「こちらこそ」和也は、握手しながら前屈みになった、エルの胸元に目を奪われ、一瞬ポーッとなりましたが、
すぐに我に返り、「さっきマミさんが竹馬の友っていってましたけど、ということはエルさんもサイバドール?」彼は尋ねました。
「和也ちゃ〜ん!ビンゴ〜!この旅行のために来てもらったの!」マミが代わりに答えます。
「彼女は、通訳専門のサイバド〜ル!80カ国語はいつでもOKなのよ〜」マミが得意げに解説しました。
「本当。完ぺきな日本語だわ」ケイが感心してつぶやきました、「誰かさんとは大違い」
「あらあらあら何か言ったかしら〜、ま〜だあるのよ、エルはワシントンやNASAで働いてるアメリカ有数のサイバド〜ルなの」
「やめてマミ、たいしたことじゃないんだから」エルは照れながら言いました。
「いやエルさん、やっぱりすごいことですよ」和也は言いました。「自分の能力を役立ててるなんて、立派です」
「ありがとう、生みの親に褒めてもらえて、光栄だわ」
「いやあ−、生みの親だなんて、僕はまだ研究中だし」
「ところでミスター和也、サイバドール・メイはどなたかしら?」
「メイですか?だったらほら、メイ!」
「あ?ハイ!」メイが、和也の隣にちょこんと出てきました。
「あなたが、サイバドール・メイね」エルは、メイに向かって話し出します。
「サイバドール・メイ、かつてのあなたの献身的な行いにより私たちの国のサイバドールが数多く救われました
アメリカのサイバドールみんなを代表してお礼を言わせてもらいますよ」
「いえ、そんなお礼だなんて、でもお役に立てて嬉しいですっ!」メイは、照れながらもハキハキと答えます。
「私、レナちゃんだよぉ」、「ケイと言います」エルは、順にあいさつしていき、
最後にかすみと握手をしながらあいさつすると、笑顔で尋ねました。
「あなたは人間の女の子ね、今の握手で分かったわ、ということは、ひょっとしてミスター和也の
フィアンセ?」
「い”っ!?え、あ、その、ボクが?和也君説明してあげて!」
「何で僕に振るんですか〜、急にそんなこと言われても〜」和也も大慌てです。
「あらあらあら〜、エルったら相変わらず早とちりね〜、かすみちゃんは和也ちゃんのフィアンセじゃなくって
ただのガールフレンドなのよ〜」マミが素早くフォローしました。
ほっとしたかすみ、でもフィアンセではなくてただのガールフレンドと紹介されてほっとしたような、
ちょっと残念なような・・・。
「ほらほらほら!立ち話ばっかりしてないで、早く俺のリムジンに乗ってくれー!わがナンバラカンパニーの経営する
最高級ホテルのVIPルームが、お前たちを待ってるんだからなー!」
南原の大声に促されて、みんなは次々にリムジンに乗り込みました。さあアメリカでの大騒動の始まりです!

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