素直な小悪魔.1
ちょっと困ったことが起きました。
第一話から出ているサラ、そして日本に来てまだ日も浅く右も左もわからないミサ、
二人は普段は姉と妹のように仲が良いのですが、仲がいいものほどいったんけんかを始めるとなかなか止まらないと言うのはよくあることです。
今回も二人一緒に外出中ミサのいたずらをサラが叱り、ちょっとばかりプライドの高いミサが素直に謝らない、といったところでしょう、
二人は表通りに出てもまだ言い争いをしていました。
ミサの悪い癖は一旦ヘソを曲げてしまうとすぐにホウキに乗ってどこかへ飛んでいこうとするところです、
「ちょっと待たんかい!」サラが飛び去ろうとするミサを追いかけてうっかり違法駐車している車のかげから道路に飛び出したものですから、
そこへ走って来たトラックにまともに追突されてしまいました。
「しもた〜っ!」はねられたはサラは道路をごろごろと幾度か転がりそう言ったきり動けなくなってしまいました。
それを見たミサが驚いて引き返し、車を止め降りてきたトラックの運転手と同時にサラに駆け寄ります、
「早く救急車を呼ばないと!」慌てるドライバーにミサが言います
「サラ姉さまは病院に連れていっても無駄です!私の言うところに運んでいってください!」
南原の屋敷の奥まった処にある部屋、空調の音しか聞こえない静かな部屋の寝台の上にスリープの状態で横たわっているサラ、
そしてその横ですっかりしょげ返っていすに座っているミサがいます。
静寂を破るかのように、部屋のドアを開けてガウン姿の南原が入ってきました。
「まだいたのか、ミサ!」
南原は、ミサに話しかけます。
「相手のドライバーには私が話をつけておいた、サラも自己修復にはまだしばらく時間がかかる、ミサ、お前もすこし休んだらどうだ」
「・・・いえ、私はここにいます・・・」うつむいたまま、南原の方を振り向きもせずにミサは答えます。
南原は渋い顔になって、
「ミサ!いくらお前がサイバドールでも、ろくに充電もせずに起き続けていたら体が参ってしまうぞ!」
それでもミサは、ぽつんと「・・・いえ、・・・元は私のせいですから・・・私、サラ姉さまの側にいたい・・・」
「う〜む、相変わらず強情なヤツだな!いいか、私は先に寝るから、おまえも時間を見て少し休め!」
南原はそう言うとガシガシと頭をかきながら部屋を出ていってしまいました。
「・・・とまあ〜、こういう具合いだ」
思いあぐねた南原はかすみ荘の和也の部屋を訪ねる事にしました。
出されたお菓子の豆をほうりあげ、落ちてくるのを口で受け止めながら、
事の一部始終を和也やサイバドール達みんなに話して聞かせました。
「ミサちゃん、そんなに落ち込んでるのか?」和也が尋ねます。
「ああ、かなりな・・・、サラの方はもう心配ないんだが、ミサの方がな」南原はほうり投げた豆をまたパクリ。
南原は続けます。
「どうもあの年頃の娘は、扱いにくくて困る、だからこうして相談に来たんだ。
サイバドールに関しては世界中でお前が1番詳しいはずだからな」
「そんなこと言われたって、これはハードやソフトの問題じゃないからなぁ」和也も困った顔をしてしまいます。
すると、
「あ〜らあら、そ〜んなことだったら〜」運んできたミルクをお盆からちゃぶ台に配りながら、マミが話に加わってきました。
「どこか、お〜出かけに誘うのがいいんじゃないか〜しら?」
「お出かけ?」みんなが尋ねます。
「そうよ〜、そんなときは、レクリエ〜ションが一番、閉じこもってちゃダメダメ!
レクリエ〜ションに誘って心も体もリフレッシュよ、リフレッシュ〜♪」
と言いながら、踊り始めてしまいました。
万年リフレッシュしている様なマミの提案に一同一旦なるほどと思ったのですが・・・
「でもあのコは、私たちの誘いを受けてくれないと思うわ」ケイの冷静な一言に、踊っていたマミの動きがピタリと固まってしまいます。
「レナはあいつなんか誘いにいかないからね!」レナが言い切ります。
「そうだな〜、あの娘が信頼してるサイバドールは、サラだけだからな、ハグッ!」南原がダメ押しします、あいかわらず豆を食べながら。
「・・・同じサイバドールなのに・・・」メイが少し寂しそうにつぶやきます。
「そうか〜、サイバドールどうしじゃだめなのか〜」和也はそう言いながら開け放たれた窓の外に見えるはしごを見つめました。