ACS外伝 「年越しだよ全員集合」2/2


「いえ〜、いいんですよ〜。私も巫女装束を着てみたかった口ですし」
そういって、彼女はクスッと笑った。
「どうですか、この格好決まってますかぁ? お兄ちゃん、喜んでくれるかなぁ?」
「それも何度も聞いたぞ。大丈夫、ビシッとOKだよ。服装が聖属性になったくらいで君のお兄さんがダメージ食らう事はないと思うな」
「先輩はほんとに言って欲しい事を云ってくれますよ。そう云ってもらえると、わくわくしてきます♪」
「おう、どういたしまして」
「征嵐く〜ん、ま〜ちゃ〜ん、あと10分位で0時超えます、ですよ〜」
似たもの同士の会話で二人が和みかけている所で、シアの突っ込みが入る。見ると、そろそろ人の動きが悪くなってきているようだ。去年はもみじ山市で唯一の神社とはいえ、もう少し閑散としていたような気がする。
やはり、ここ100年近く空座だった祭神の座に違う形とはいえ実際に霊力を発揮するものが収まった事で、もみじ山市民たちも何か感じているのかもしれない。
それに今は客寄せ、もとい参拝者を増やす一因となった美少女巫女さんも居るのだし。
その時不意に、座り込んでぼうっと外を見ていたシアが授与所の外をきょろきょろと見回した。
『あ、征嵐さん。洸さんたちが来たようです』
「え、見当たらないぞ?」
シア同様授与所の外を見る征嵐だが、見当たらない。そんな所に背後から声が聞こえてきた。
「ここだぁ、征嵐! 今年は、ほんっと〜〜にぃ!面白い年になったなぁ!」
ハンバーガーの包みを手に持ったままいつのまにか征嵐の後ろに居るのは、隣の寺、瑞雲時の住職の息子で榊洸輝(さかきこうき)だ。ほとんど美女と見まがうばかりの顔立ちに、男にしてはスレンダーな姿だが、まとう雰囲気が違う。相変わらず溶鉱炉のような強烈なエネルギーを発している。
何より、その顔でのラフな物言いは彼以外に考えられないものだ。
「何処に居るんだお前は! ほら、関係者以外は立ち入り禁止だ。外にでろ外に」
「そう云うなよ、ジーザス。これ食う間ぐらい隠れさせてくれ」
「誰がジーザスだよ。大体隠れるって何からだよ!」
いそいそと机の下に隠れる洸輝を、征嵐は荒い口調で呼んだ。
「他に誰が考えられるかよ。ほら、アレだ、アレ」
むぐむぐと食いながら、手のふりで外を示す。すると。
「なによ! スイがいないと、月光獣に食わせるつもりだったんでしょう!めんどくさいからって、もっと頭を働かせたらどうなのよ!!」
「まあまあ、姉さん。落ち着いて〜」
「ふん、食わせたらほんとに死んじゃうでしょ? もっと頭を使うのはそっちの方ね。あんな酔っ払いくらい人型の月光獣で右ストレートをくらわせば一発でおねんねよ。楽でいいじゃないの」
「ちょっと待ってよ。あんたもCBDでしょ。普通に押さえつけたらどうなのよ!」
「あ〜ら、こんなか弱い美人に、そんな荒事できるわけないじゃない〜」
「誰が、か弱いよ!この、ロートルがぁ。あんたなんかおばさんで十分よ」
「おほほほ。おしりの青痣も取れてないような小娘が。もっと気の聞いた台詞を吐いてごらん」
「蒙古班なんかとっくにないわよ!」
「クロウ姉さんも、煽らないで下さい〜!」
いつもよりやかましい境内を一際目立つやり取りをしながらやって来る、神社には不似合いな一団がある。
濃紫のロングヘアーにルビーのような赤い目の長身美女はCBDクロウディアだ。もちろんドレスではなく黒のタートルネックのセーターにブラウンのミニスカという普通の姿をしている。
ショートカットに気の強そうなそれなりに整った凛々しい顔立ちで、クロウディアにあしらわれているのは鳳麻由理のライバルを自称する葛城綾菜だ。
そして、二人の間でオロオロしている14歳くらいの育ちのよさそうな金髪美少年は、綾菜のパートナーでCBDスイである。
「なるほど、よく分かった」
「むぐむぐ、伝わって何よりだぜ」
納得した所で、口げんかをしている一団が授与所に近づいてきた。
「や、やあ、あやっち、スイ君、クロウさんこんばんは」
「これから忙しくなる所ね征嵐ちゃん、がんばってね。それはそうとシア・・。そのかっこ、中々いいじゃない」
「どう、中々似合ってるでしょ? クロウじゃ巫女装束は似合わないもんね。神社には不似合いな不穏な雰囲気だしまくりだし」
「く、悔しいけどその通りね」
「や〜い、敗北者〜」
「黙ってなさい、小娘」
「二人ともやめてくださ〜い」
「二人ともやめてくれないかな。他の参拝者に迷惑だし、雰囲気が悪くなる」
その性格設定ゆえに見事に貧乏くじを引く形になったスイに征嵐が助け舟を出した。
すると綾菜がしまったという顔をすると、すぐに征嵐に謝った。
「ご、ごめんなさい、ジーザス先輩。あ、あのですね。コウ先輩知りませんか?」
「だからジーザスはやめてくれちゅうの。やつは、その机の下だよ、あやっち」
わずかに表情を引きつらせながら、征嵐は後ろの机の下を指し示した。
「あ、きたねえぞ、ジーザス!」
「変な呼び方を広めるお前が悪い」
「うぐぅ!」
「さあ、先輩、そこから出てきて一緒にお参りしましょ♪」
「そうですよ、洸輝さん、僕だけに二人の相手をさせないで下さい」
楽しげな綾菜と、情けない声を出すスイが洸輝を引っ張り出しにかかる。征嵐とシアに助けを求めるように顔を向けるが、ジト目と諦めようね♪という表情の二人におし出されるようにして、諦めて出てくるのだった。
「ち、飯くらい一人で食いたかったぜ、」
「年越し蕎麦を食べてから、まだそんなに経ってませんよ、洸輝さん」
一人で、二人の押しの強い性格の女性をとめなくてもすんだせいか、笑顔でスイが突っ込みを入れる。
「やかましい、坊主。普通、年末は家族で過ごすもんだろうが。なぜ、お前らまで一緒なんだよ」
「それは〜、お寺の人が洸輝先輩&家族の人を除いて全員食中毒で倒れたからでしょう」
席をはずしていた麻由理が戻ってきたのだ。あとからやってきた一団が一斉にそちらを見る。
いつでも授与物を配れる位置に麻由理がすわると、いつもどおりに綾菜がかみついた。
「うっく、ゆま〜! 何よそのかわいい巫女さん姿は! 私だって、負けないわよぉー! 先輩、私にも巫女服貸して下さい!!」
「いや、くじで決まった事だしさ。ごめんね」
「あきらめい、綾。おまえじゃこの清浄な雰囲気は出せんから」
穏便に収めようとする征嵐と、身も蓋もなく斬って捨てる洸輝であった。微妙に笑いをこらえたシアが、テンションが上がってプルプルしている綾菜をなだめにかかる。
「ほらほら、綺麗な顔が台無し、ですよ。怒らない怒らない」
「うー、だってー、だってー」
なんだか半泣きになってきている綾菜を置いておいて、クロウディアがあたりを見回す。
「あれ? あの二人は?」
「家のかたづけをしてから来るって云ってましたから、他のメンバーがここにいる以上、そろそろ来ると思いますよ」
頭上から声が降ってきた。それとともに、白衣がまぶしい白鷺のごとき姿が舞い降りて、ふわりと着地した。今まで、樹上から警戒に当たっていたシズが降りてきたのだ。
いつもの黒い薙刀は持っていない、この人ごみでは逆に危険になるからだ。
それでも、組打ちが可能なように紫色の紐でたすきがけにしていて、最終戦前に人から貰った紫色の長手袋のような手甲を装着した完璧な迎撃体制だ。
「クローズ」
キーワードともに手甲が畳まれて又ブレスレットの形に収まる。
「何か小さなトラブルがあったのかもしれませんが、あと少し待ちましょう」
たすきをはずして、懐にしまいこむ。たすきで抑えられていた袖が優雅な鳥の翼のように広がり、次の瞬間にはガードマンではなく並ぶ事のない美しさを持った巫女が現れた。
「そうね、あの二人が約束を破った事なんてないもんね」
「あ、ほら、噂をすればなんとやら、ですよ」
クロウディアとシアの台詞に急かされたように、現れるはずの最後の二人が現れた。しかも恥ずかしい格好で。
「すんません! 師匠、先輩! おっと、他のみんなも!」
「ごめんなさい、です!」
短めの髪で、成長すればさぞやワイルドな好青年に成長しそうな、活きのよさそうな14歳ぐらいの少年はCBDシン。そして・・・。
そのシンにお姫様抱っこで抱きかかえられている16歳ぐらいの少女は、CBDノユだ。恥ずかしそうに、それでいて幸せそうに顔を赤らめている姿はとてもCBDとは見えないが、感情に合わせるように動く彼女に背中にある蝶の羽のような大きなリボン状のものが付いてる変わった容姿は、たしかにCBDだろう。
「遅いよ、シン!」
「あら〜。こいつはお暑い物を見せてくれるわね〜」
「ヤーン、二人ともラブラブ〜」
CBDスイ、CBDクロウディア、CBDシアの三者三様のブーイング&囃子声が響き渡る。
「くぅ! うるさ〜い! す、好きでこんな目立つ所で抱きかかえてきたわけじゃないぞ!」
「じゃあ、おぶってくるだけでよかったんじゃないの?」
「う!」
冷静な兄弟の突っ込みに言葉を失うシン。
「シズさん、すいませ〜ん。靴が壊れてしまって、その、すぐ着替えます!」
「あ、あなた用のは名札がついてるからねっ」
「は〜い」
「揺らすな、ノユ」
「あ、ごめん、じゃあもっとしっかり抱いて♪」
「だから、はずかしいんだー!」
相変わらずお姫様抱っこのままで、シンに抱きかかえられたままノユが社務所の方に消えていった。
さっきまで半泣きだった綾菜も含めて、一同無言で二人を見送る。
確かに冬とは思えないくらい熱いかもしれない。
「全員そろいましたね〜」
「ん、いやまて、もう一人来るぞ」
「おっと、こいつは皆さんお集まりで。夏には世話になったな」
シズの声に征嵐が訂正を入れる。その瞬間今まで誰もいなかった場所に人が立っていた。
どこか、暗い雰囲気をまとったダンディな大学生くらいの男だ。この夜中にもサングラスをかけているのが、いかにも怪しい。その怪しさは何処かしら『魔』の領域に属するものに通じる。
「お、お兄ちゃん!」
「お、麻由理、ひっさしぶりだな。その巫女姿中々かわいいぞ」
彼は鳳恒星(おおとりこうせい)。麻由理の兄である。突然の兄の来訪に、思い切りうろたえる麻由理。
そんな姿を見ながら、笑顔を一同に投げかける。
「今年は、中々面白い年だったな」
「日本に帰ってたんですか」
一同を代表して、征嵐が声をかける。
「ああ、ロゼはどうしても時間がかかるそうだから、サイバーダイン社においてきた」
「そうですか、直るといいですね」
「大丈夫だろう、あっちも専門家だし。俺が誰だか良くわかってるはずだ。ぬるい事はやらないだろうさ」
にやりと凶悪な笑顔を浮かべる恒星。
「あ、はは、そうですね〜」
「どうした顔が引きつってるぞ。ふっ、しっかりしろ。お前はもっとでっかい男になれるんだぞ」
「いや、いまだに実感がわかなくて」
「そうか、時間はたっぷりある。強くなるんだな。なぁ、みんな」
みんなが、そうそうという風にうなづく。そしてその中で、CBDスイがふと、腕時計に目を落とす。
「あ、後2分で2002年になります」
「間に合ったですか〜?」
「お、だいじょうぶのようだ!あ、コウさんお久しぶり!」
着替え終わったノユと、シンが駆け寄ってくる。そして、恒星に気付くと軽く頭を下げた。
「よう、ノユとシンか。今年はすっかり世話になったな。来年も妹の事頼むぜ」
「いや、こちらこそよろしくですよ」
「は〜い、では、全員そろった所でぇ。征嵐君! シズちゃん! あなたたちは、二人であの高台から町の様子を見てくる!」
「え、なぜです?」
「いいから♪」
授与所の中からシアが征嵐を、外ではノユがシズを町に向かって展望台状態になっている方向へ押し出す。
「ほら、シズさん。い、そ、い、で!」
「あ、えと、は・はい!」
皆に手を振られながら二人が展望台につくと、その瞬間遠くの方からバンバンと音だけの花火の炸裂音が聞こえてくる。
そして遠くの川の方では、新年を祝う花火が打ちあがり始めた。派手なスターマインの花弁が実に美しい。
「あ・・・、あけましたね」
「なんか、仕事にメイっぱいになっていてすっかり忘れてたな」
見ると眼下の階段には、さらに人が押し寄せてくる。よく見るとスカーレット色のメイド服とか、黒いチャイナ服とか、明らかにCBDだと分かる服装の人影もいる。これからが、神社の人間のとってはさらに忙しくなる時間帯なのだ。
そして、どちらともなく向かい合うと。
「新年明けましておめでとうございます。今年もよろしく頼むよ」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ・・その・・お願いします」
そういってくすっと笑い合う二人であった。
「さ! 忙しくなる、戻るぞ!」
「はい」
シズは、何気なく差し出された征嵐の手をとると、嬉しそうに引きずられていく。
2002年、また人とCBD。相反する、二つの種族の物語が始まる。


− 了 −


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