Angel Class Story 枝編断章「境内決闘シーン1/2」


ちぃんっ!
賊がはじいた薙刀が涼やかな音を立てた!
「キャ!こいつ・・・・強い!」
シズは一歩下がって薙刀を構え直すと、眼前の賊を見すえた。
そしてじりじりと摺り足で位置をずらしていく。合わせるように賊も動く。しかし、手は出さない。技量が拮抗している為、膠着状態におちいったのだ。スピードならこちらが上のはずだが、しかし!
―こんな事なら、いつもの仕込み箒のほうが良かったな―
練習用の薙刀では思い切った技を仕掛ける事も出来ない。今回の強盗の得物がサーベルとはいえ、単純に技術だけなら向こうの方が上のようだ。せめて手裏剣の一本もあったら状況に変化もできるのだが・・・。
「う、うーん。いててて・・・」
攻めあぐねていると後ろから人が起き上がる気配がした。先ほど強盗を捕らえようと不用意に飛び掛って、見事返り討ちを食らって昏倒していた征嵐が起き上がったのだ。
「! シズ、だいじょうぶか!」
「はい!」
一番大丈夫じゃない征嵐が、シズに声をかけた。その、ほんの一瞬意識がそれた瞬間をねらって、賊がまた攻撃を開始した!
―高機動型CBDの自分についてくるなんて、この人、人間じゃないの!?―
そんな事を思いながら右から左から、はたまた突きこまれてくる剣をさばく。何度かの打ち込みの間に
ほんのわずかなタイミングのずれを狙ってシズは、賊をなぎ払った!
「っつ!」
一瞬、ミシリと悲鳴をあげる薙刀に顔をしかめつつ、シズは手を出しかねている征嵐に声をかけた。
「征嵐さん、ほうきをっっ!」
「分かった! 二分もたせてくれ!」
相変わらず続く打ち込みのラリーに背を向けて、母屋に向けて征嵐は走り出した。

「チクショー、俺役に立ってねぇ!」
―なにか、俺に出来る事は!―
玄関に立てかけてあった仕込み箒を手に取ろうとしてフッと思い立った。間をおかずに自分の部屋に駆け上がった彼は、部屋の隅にあった何かの楽器のケースを手に取ると急いで取って返す。
意外と重いほうきと楽器のケースを手に取った彼は、急いで決闘場と化した境内に向かった。
すぐに夕闇の中にも映える巫女装束のシズの姿が見えてきた。

「キャ!」
賊のサーベルがシズの目の前を通りすぎた! 何本か前髪を持っていかれる。
「いやん!」
切られた髪を気にしつつこちらも果敢に打ちかかる。普通なら長いリーチを持つこちらが有利だが、今回の盗賊は一味違った。リーチの差を未来予測の的確さでカバーしてくる!
打ち込みが当たらない!
「シズ、すまない、またせた!」
既に夜といって過言でない夕闇の中を、征嵐がかけてくる。
「はい! あっ・・、ハイヤ!」
何とか薙刀を仕込み箒に交換しなきゃと思いつつも、賊は果敢に打ち込んでくる。得物を交換しようとしている事に気がついたのか、わずかに賊の打ち込む剣の威力が増した。もちろん普通の人間よりパワーが上のガードマン型CBDに防げない物ではないが、それでも気が抜けない事に変わりはない。
―ど、ど、どうしようっ―
賊は武器交換の暇を与えてくれそうにない。ほんとは敵の攻撃を受け流せればよいのだが・・・、知識ではあるものの、自分でそれを試した事はない。闘い方を変えるのはあまりにもリスクが大きかった。
―それでもなんとしても、なんとしても賊を捕まえなきゃ!!!これ以外にとりえがないのに、他にどうすればいいの!―
実戦経験が少ない自分を呪いながら何とか次の手を模索する。しかし、状況はどうにも向こうが勝っていた!

「ああ、どうやって武器を渡せばいいんだ・・・。やっぱり俺にはどうにも出来ないのか!」
似たような思いにとらわれていた征嵐。思わず全身に力が入るものの、どうすればいいか決心がつかない。しかし、やがて意を決して持って来た楽器のケースを開くと、古ぼけたバイオリンを取り出した。

状況の変化はきわめて速やかだった。困り果てたCBDシズがまず気がついたのは、闇の中を流れる美しいバイオリンの音色だった。
「え、え、な、何、何?」
「ぬっ、ぐぐっ!」
賊が突然ガクリとバランスを崩した。こらえるような動きをしめすものの、バイオリンの高く低く流れる旋律の中すぐにガクリと膝をついた。
「え、まさか!」
シズが思わずバイオリンの音源を捜すと、そこにはフラフラになりながら音色をつむぎだす征嵐の姿があった。
「き、貴様は・・・。」
苦鳴をもらしながら、再び立ち上がろうとする強盗! そしてそれをとめる様にバイオリンを弾き続ける征嵐!
そして、やがて・・・・・、強盗がバタリと地に伏した。それを見届けると、今度は征嵐がバイオリンをかばう様にゆっくりと地に伏した。
「征嵐さんっ、征嵐さんっ!!」
慌てて征嵐に駆け寄るシズが見たものは・・・!
「んくー・・・」
気持ちよさそうに眠る征嵐の姿だった。見事なダブルノックダウン。闘いは征嵐と強盗の両者相討ちであった。
「はー、よ、よかったー。でも・・・・どうしよう。」
シズは緊張の糸が切れてペタンと座り込んだ。

〜続く〜

  目次 次へ