新春初打ち〜タマにはいいじゃない〜 その2


「あらあら、これで全員かしら?」

もみじ山市の河川敷のグラウンド。和也達とかすみがコーチしている少年野球チームのメンバーが集まっていた。

「6人も来てくれれば御の字よ。元旦早々野球をやろうと言って応じてくれるだけでも有り難いと思わなきゃ」
「か〜すみちゃんの言う通りかもね・・・はいは〜い、ボーイズ・アン・ガール、今日はマミお姉さんのワ〜ガママに付き合ってくれてベリーセンキュ〜よぉ」

ガールといったのはチームのメンバーの一人である神真人の妹、美雪も兄に付いて来ていたからだ。

「これから新春や〜きゅう大会を開きたいと思いま〜す。人数が少ないから特別ルールで行くわね。ピッチャー、キャッチャー&内野手はいつも通りだけど、外野は一人よ」
「え〜!?」
「その代わり、“利き腕シフト”をしくわ。バッターのボックス側に外野手は移動するの。そして二塁を境にボックス側に飛んだ球を有効、反対側に飛ばしたらアウトにするわ」
「ええ〜!?」

マミの常識はずれな提案にブーイングが起こる。

「球を追いかけて余計なランニングをしたくないでしょ〜? 試合時間は1時間。ファール続きで一回の表のままでも、延長二十三回裏、2点差ツーダン・フルベース、ツーアウト・スリーボールという局面でも1時間経ったらゲームセットよ〜」
「おばさん、野球の常識わかってんの?」
「大体、女の人達のその格好、やる気あんの?」

少年達が疑問視するのも無理はない。CBD達はいつもの格好でグラウンドに来ていた。かすみも上こそユニホームだが、下はミニスカートのままだ。

「なーんか試合結果が目に見えてんなぁ・・・帰ってうちでゲームでもしてた方がマシだよ」
「あらあら、だーれがあなた方と私達の試合って言ったかしら〜? 混成部隊で行くわよ〜。これからくじ引きするから、誰々が組んでもにらめっこナシよ〜」
「マジかよー」
「文句言うなよ。みんな家にいても退屈だからここに来たんだろ? 折角だから付き合ってやろうぜ。・・・その代わり、真面目にやってくれよ、マミおばさん」
「真人君、グッド・スポーツマン・シップよぉ。じゃあ、チームリーダーは和也お兄ちゃんと“マミお姉さん”で行くわね」

「はぁ・・・いい年かっぱらって、まだお姉さんて呼ばせたいかねぇ〜」
「サラさん、具合、大丈夫ですか?」
「有り難う、早乙女・・・大丈夫、“酔っぱらいモード”をキャンセルしたから」
「キャンセルって・・酔っていたふりしてただけなんですか?」
「ふりって言うか、摂取したアルコール量に応じて酔った状態を演出するのよ、CBDは。人間におつき合いする為にね」
「そんな事までするんですか・・・」
「もちろんCBDが酒を飲むなんて無意味な行為だよ。ただ、未来でも酒は徴税手段になっているから、消費量を増やす為にそんなモードを付けているんだろうね」
「はいはい、サラちゃん、くじ引っ張ってみて〜」

サラはやってきたマミが握っている“こより”の束から一本引いた。下に黒い色がついている。

「あらあら、サラちゃんは和也ちゃんチームねぇ。と・こ・ろ・で、聞こえたわよ〜さっきの」
「げ・・・」
「でも分かる、分かるわぁ。20代から下の女の子はそう思うものなのよねぇ。でも、自分がいざ30代になったら今度は“私はまだまだ若いわよ”って言い張るのよね〜」
「は〜い、失礼いたしましたぁ」
「じゃ和也ちゃん、チーム編成よろしくネ」
「・・・行ったか・・ふぅ、とんだヤブヘビだったよ」
「でもマミさんも変なこと言いますね・・・CBDが年を取るわけでもないのに・・・」
「そういう訳でもないわ」
「あ、ケイさん」
「20歳から上のCBDはメモリーを更新しない限りメンタル・プログラムが経年変化を起こすようにデフォルトで設定されているの。そうしないと年齢を重ねていくマスターと話が合わなくなるでしょ?」
「じゃあ極端な話、20年経ったら・・例えばケイさんなら見た目20代のまま、“心”は40歳になるって事ですか?」
「そう言う計算になるわね・・・あんまり嬉しくない例えだけど」
「す、すみません・・・そうなんだ・・・じゃあ、メイは・・・?」
「10代以下は一応チェック・オフになっているわ。さすがに精神年齢40歳のメイちゃんやレナちゃんというのは辛いものがあるでしょ?」
「お、やっこさん方準備できたみたいだよ。あたしらも早くポジション決めようよ」

「いいわね、みんな! 力を合わせて和也ちゃんを撃破するわよー!!」
「おおー!!」

「・・マミさん・・・“和也チーム”って言って下さいよ・・・」


チーム編成は和也側がサラ、ケイと真人を含む少年3人、マミ側がかすみ、メイ、レナと少年2人。審判を一応務める美雪が試合開始の合図をする。

「プレイボール!」

一回表。攻撃はマミチーム。ピッチャーのサラがキャッチャーの真人に檄を飛ばす。

「真人! 妹に怪我させたくなかったら取りもらすんじゃないよ!」
「おう! ドンと来い!」

 ドンッ!

「ストラーイク・ワン!」
「・・・痛ってぇ〜・・もっとお手柔らかに頼むよ、サラさん」


二回表、0対0。

「見てらっしゃ〜い、こう見えても昔は飛ばし屋マミって呼ばれていたんだから」

そううそぶきながらバッターボックスに立つマミ。

「ぶ〜ひん〜のこぉろか〜ら〜エ〜ス〜で〜よ〜ば〜ん〜」
「・・・部品・・?」と真人。
「マミ姉! バカな歌うたってんじゃないよ!!」


四回表、1対2。バッターはメイ。

「サラさん、今度こそ打ちますっ」
「よーし、打ってみなっ」

快音を残して打球が宙に舞う。ホームランに見えたが伸びが足りず、放物線を描いて落ちていく。

「二塁線上かな・・微妙だ・・あれっ、ケイさん!?」

いつの間にか二塁線上の奥の方にケイがいるのを見て驚くかすみ。ケイがわずかに上半身をかがめると、打球は彼女が後ろ手に構えていたグラブにスッポリと収まった。

「そろそろ来ると思ったわ」
「うわー、ケイったら嫌味〜」
「イヤミダ、イヤミダ」


六回裏、2対2。二死満塁でバッターは和也。

「ストライク・ツー!」
「早乙女ー! 一回くらいいいとこ見せなよ!」
「分かってますって!(でもボールスリーなんだよな・・後がないよ・・何か嫌な予感のするシチュエーションだな・・・)」
「ゲーム・セット! 1時間経ちましたー!」
「やっぱりそういうオチか・・・」

ガックリとへたり込む和也。


試合後、マミはお年玉と称して参加者達に回転寿司をおごった。

「建前はイーティング・フリーと言ったけど、食べ過ぎちゃ駄目よぉ。帰ったらあなた方のママの夕御飯も食べられるようにしておくのよ〜」
「ケチ臭いこと言うなよー」
「それに晩飯ったって、買ってきたおせちたぜ。こっちが嫌になるよ」
「あらあら」

「和也クン、この後どうする?」
「どうったって・・・う〜ん・・・そうだ、せっかく街に出てきたんだから初詣に行こうよ、みんなで」
「えー、この格好でぇ?」
「・・・やっぱり晴れ着で行きたいかい?」
「う〜ん・・でも・・」
「あらあら、たまにはいいじゃない? 身なりでディスクリミネイションするような神様ならこっちがノーセンキューよぉ」
「マミ姉、大きく出過ぎだって」
「かすみちゃんとメイちゃんは痴漢に気を付けた方がいいかもね〜。そのミニスカートじゃね〜」

口ごもっていた理由をケイにズバリと言われてかすみは慌てた。

「そ、そんな事ないよ! よし、行こうよ、行こうじゃないの!」
「大丈夫だよコーチ。コーチとメイさんの後ろは俺達がカバーするから」
「行こうよ、みんなで」

真人や美雪達がフォローを買って出たので、かすみはホッとした表情を見せた。

「有り難う、みんな・・じゃあメイ!」
「はい! メイも嬉しいですっ」
「あらあら、それじゃお愛想をおね・・」
「「「まだ駄目ー!!」」」
「あらあら、みんなファイン・チューニングねぇ」


終わり


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