新春初打ち〜タマにはいいじゃない〜 その1


「明けましておめでとうございまーす!」

1月1日。かすみ荘、早乙女和也の部屋にて行われた新年会。既に三回目を数える。
今回、いそうもない者が2名加わっていた。サラとマミである。
サラの身を預かる南原耕太郎は家族と共にハワイで正月を過ごしていた。年前にその事を聞いた和也が何故サラも付いて行かないのかと訊ねると、

「だってあたしパスポート持っていないもの、付いていけるわけないでしょ」

という答えが返ってきた。

「ケイは“偽造[つく]ってやる”って言ってくれているんだけどね、さすがにそれはマズいでしょ」
「ととと、当然ですよ・・・もう、ケイさんたら・・・」
「荷物扱いで行こうと思えば行けるけど、そこまでして面倒を見る相手じゃないしね」

マミもクリスマス前からこの正月にかけて、ずっとかすみの家に厄介になっていた。かすみはこの時期に卓也の側に居てやらなくていいのかとマミに訊ねた。

「あらあら、向こうじゃ三が日なんてとっくの昔に終わっているのよ。私は七草がゆの材料を手に入れるついでに、こっちに寄っているんだから〜」
「そ、そうなんだ・・・(タイム・トラベルって今イチよく解らないなぁ・・)」

さて新年会、めでたさ気分も最初まで、時が経つにつれて座もだらけてくる。レナとイカリヤは年末に録画した『新・愛のつむじ風・総集編』のビデオに没頭し、メイは皿やコップの出し入れに忙しい。
かすみとケイは和也の両隣に陣取り、互いを牽制しあっている。二人の間で飲み食いを“強要”されている和也も気圧[けお]されっぱなしだ。
そしてマミとサラは世間話をする内に、いつの間にか飲みくらべを始めていた。

「・・いや、でもいい機会じゃないの? 家族水入らずで過ごせるんならさ。南原はいいよ、親もいいよ、問題は千尋なんだよ。あの子、休みになったらいつもどこかへ出かけちゃうからさ、捕まったためしがないんだよ」
「はいはい、サラちゃんどうぞ」
「あ、どうも・・・(ゴクン)、だからこんな時でもないと家族全員揃わないんだからさぁ。ほら、マミ姉も」
「は〜い、センキュ〜」

5分経過。

「だってこの間なんかさぁ、朝イチで出かけて夜の10時頃に帰ってきたからさ、どこへ行っていたんだって聞いたのよ」
「はいはい、サラちゃんどうぞ」
「ど〜も・・・(ゴクン)、そしたら『四国の高松に行ってた』って。高松へ何しに行ってたって聞いたら『うどん喰ってきた』って! 何でわざわざ高松にうどん喰いに行ったのよって聞いたら『雑誌に載っていた写真が美味しそうに見えたから』だって!」
「はいはい、サラちゃん」
「・・(ゴ・・クン)、ええ? バカじゃないのよ!? そんな理由でンな遠い所まで行くなってのよ! 心配するこっちの身にもなりなさいってのよ!」

20分経過。

「でもさぁ〜、よくよく考えたら去年だっけえ? 温泉入りに指宿まで行ってた事もあったわねぇ〜。日帰りでだよぉ? 信じられるぅ? 早乙女ぇ〜?」
「はは・・・昔はそういう子じゃなかったんですけどねぇ・・・」
「はいは〜い、サラちゃ〜ん」

1時間後。サラは具合悪そうな顔でテーブルの脇に寝転がっていた。

「うう・・・苦し〜い・・吐く・・吐いちゃう・・」
「サイバドールでも吐くことあるんですか?」
「吐くよそりゃ、サイバドールだって・・・食物分解プラントのキャパシティを越えたらさ・・」
「ラーメンを何十杯も平らげるサラさんらしくない台詞ね〜」
「ちょっと、こんな所で吐かないでよサラさん! 汚したら弁償してもらうわよ!」
「文句あるんならそっちで大の字になっているオバさんに言いなさいよ。あたしは飲みくらべに付き合わされてこうなったんだよ。怒るんならそっちの人に怒んなさいよ」

詰め寄るかすみにサラはそう言ってベッドの上のマミに顎をしゃくった。

「あらあら〜サラちゃ〜ん、大の字じゃないわよ〜。メイちゃ〜ん、私の右ひざの内側におしぼり置いてくれる〜?」
「こうですか?」
「マミは今、大の字じゃなくって“太の字”になっているので〜す!」

そう言ってキャハハハと笑うマミ。かすみとレナとイカリヤが突っ込む。

「・・・寒いね」
「ね」
「ネ」

マミの足元ではメイが手を腰に当てて仁王立ちしている。

「どうでもいいけどマミさん、着物の裾の奥が丸見えですよ。はしたないですっ」
「ええっ?」
「見ないの!」
(グキキッ)「うげっ」

和也にしてみれば、ちょっと驚いてマミの方を見ただけなのだが、かすみは必要以上に彼の首をひねり戻してしまった。そんな彼やメイに構わずマミが天井を見上げながらつぶやく。

「そうねぇ・・・新年早々、こんなんじゃいけないわよねぇ・・・そうだわ、か〜すみちゃ〜ん、野球チームの男の子達を呼び集められる〜?」
「えっ?・・・まさか・・」
「そう、そのま〜さかよぉ」


(続く)


あとがき

南原千尋が旅行好きという設定は私が独自に考えたものです。
本編でいついかなる時も姿を見せない理由の一つとして考えてみたんですけどねぇ。


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