FACE TO FACE 第1話


本人が特に話すわけでもないので、現在彼女の周りにいる者は誰も知らないのだが、サラには一つのジンクスがあった。
「最初」とか「初めて」という事に何かと縁があるのだ。

あの日、サラは史上初めて早乙女和也に会ったサイバドールになった。


サイバーダイン社営業部カスタマーサービス課の課長、泉谷は足早に社内の廊下を歩いていた。
当人は努めて冷静に見せかけようとしていたが、抑え切れぬ興奮はすれ違う者を跳びすさらせるほど彼の顔を緊張させていた。
彼は配達員の詰め所のドアを開けるなり、大声で怒鳴った。

「おい! 今日一番の大仕事が入ったぞ!」

普通の人間だったらその声に気圧[けお]されて縮み上がったかも知れないが、部屋の中にいた者達はいつもの事と言わんばかりにドアの方を見て、軽く会釈をしただけだった。そのうちの一人など、テーブルの前に座ったまま
振り向きもしない。
課長の足音は聞き慣れたものだったし、聴覚センサーの感度を少し上げれば50メートル先でも彼の接近は感知できる。
詰め所の中にいる者は全員サイバドールだった。

「さぁて、哀れな子羊は誰にするかな・・・よしサラ! おめぇだ!」

そう言って課長は背中を向けて座っていたCBDの肩を叩いた。
ようやくそのCBDはカップ麺を口にしたまま彼の方に振り向いた。
銀髪に褐色の肌のサイバドール。サラである。
サラは口を開くために勢いよく麺をすすり込んだ。勢い余って数本の麺がはねて、彼女の額を叩いた。

「わらひ・・・んっく・・・ですか?」
「そぉだ。サラって言や、おめぇ以外に誰がいる?」
「いるじゃん・・・」

そう言ってサラは青い髪のサラ・タイプを箸で指した。

「俺が指名したんだから、おめぇなんだよ! 文句あっか!?」
「ないスけど・・・何やるんです?」
「ちょーっと遠出をして貰う事になるぞ。いいか?」
「・・・まさか弾道ミサイルにくくりつけて、宇宙ステーションまで電動歯ブラシセットを届けにいかせるぞ、てな話じゃないでしょうね?」

ほかのCBD達はそれを聞いてクスクス笑った。配達員がキツイ仕事を嫌がった時の課長の常套句だったからだ。

「遠出ってのは、距離じゃなくて時間の事だ・・・おめぇには2000年に跳んで貰う」
「2000年って、西暦2000年のことですか?」
「おぅよ」

課長のその言葉を聞いて部屋の中に緊張が走った。

「ちょっと待って下さい。我が社での2000年への渡航は禁止されていたのではないですか?」

そう言ったのはポニーテールを結った長身のCBDだった。

「確かにな。だが、本日午後4時をもって解禁になった。とんでもねぇ奴からの発注があったんだ。ミチ、誰だと思う?」

ミチと呼ばれたポニーテールのCBDは即答した。

「解りません」
「・・・少しは悩めよ。聞いて驚け、あの早乙女和也からなんだよ」

課長はミチだけでなく、サラにも言い聞かせるに言った。
サラはボソリと言った。

「早乙女・・・誰なんです? それ」


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